温泉でリトリート 世界に誇る日本のウェルネス文化【リトリートという生き方 vol.3〈後編〉】

「温泉に浸かる、その先に何があるのか」―― そんな問いを、どこかで感じたことはないでしょうか?私たち日本人が古くから育んできた温泉文化は今、単なる疲労回復を超えた新しい役割を担いはじめています。本連載では、自然療法やリトリート事業のプロデュースに長年携わり、温泉ソムリエの資格も持つネイチャーセラピストの豊島大輝氏が、現場で積み重ねてきた知見を、豊島氏自身の言葉でお届けします。


前回のコラムでは、温泉と人の⾧い関係について書きました。
このように、人がまだ自然の中で生きる「ヒト」だった頃から、温泉は身体を温め、命を支える場所だったのではないかと考えています。 そして、その営みは湯治という日本固有の文化となり、私たちの暮らしの中で受け継がれています。

しかし現代は、その頃とは“回復すべきもの”が少し変わってきているように感じています。

昔の人々は、農業や林業、漁業など、身体を使って働くことが当たり前でした。
だから温泉には、酷使した肉体の疲労を回復させるという大きな役割がありました。

また、医療の未発達により、病気の治療方法も限られ、温泉で自らの自然治癒力を高めることが、病気療養や回復にとって大切な役割を持っていました。

一方、現代の私たちはどうでしょうか? もちろん身体も疲れます。

けれど、それ以上に私たちを疲れさせているのは、情報の多さによるストレス、そして慌ただしく流れる時間ではないでしょうか?
AI が発達し、便利な時代になりました。
一方で、常に私たちはスマートフォンを気にし、毎日、毎日、多くの情報に触れ、自分でも気づかないうちに心を休ませる時間を失っています。

さらに現代は “自分らしい生き方” を自ら選ぶ時代でもあります。

昔のように身分や職業が固定されていた社会とは違い、「私は何者なのか」「どう生きたいのか」を問い続けながら人生を歩んでいます。 だからこそ、現代にとって“回復”とは、単なる疲労回復を指すわけではありません。

溢れる情報と選択肢の中、人間そのものを回復することがリトリート。
私は、リトリートとは「個」としての自分を取り戻す時間でもあると思っています。

社会の中で役割を生きる「人」から、自然のままの自分「ヒト」に戻る旅。

それは、ありのままの自分、自分らしい自分という意味でもあります。

その意味で、温泉地には新しい役割が生まれているように感じます。
温泉に浸かることはもちろん大切です。 しかし、それだけではありません。

自然の中を歩く。
鳥の声に耳を澄ます。
その土地の旬の食をいただく。
四季を感じる。
静かに呼吸を整える。

こうした時間を通して、人は少しずつ自然のリズムを取り戻していきます。

これらは、私の提唱するネイチャーリトリート、つまりは自然そのものをセラピストとする考え方です。

つまり、 温泉で回復する
だけではなく、 温泉地で回復する
という考え方です。

そこへ欧米発のウェルネスプログラムが加わることで、日本型リトリートはさらに豊かなものになっていきます。
ヨガやマインドフルネス、ジャーナリング、アーシングなど、欧米で発展してきたウェルネスプログラムは、人がより良く生きるための素晴らしい実践です。

日本人が古くから育んできた自然観や温泉文化と、現代のウェルネスが合流する「場」に、これからのJapan Retreatがあると考えています。

源流が異なる二つの川が合流して、一本の川になるように、それぞれの良さが出会い、新しい価値を生み出していく。
その合流地点にJapan Retreatは生まれていくのだと思います。

私も、ウェルネスとの合流点を見つけながら、上手にヨガやジャーナリングなどの最新のワークを取り入れてリトリートを開催しています。それは、温泉地という風土が本来持っている回復の力を、現代のウェルネスという視点から、もう一度引き出していく試みです。

“温泉で回復する“を超えて“温泉地で回復する”

この考え方が、これから世界へ発信していきたい Japanese Retreatの在り方なのだと感じています。


【筆者 豊島 大輝
ホリスティックサポート代表、日本ネイチャーリトリート協会代表、鹿野山自然学校 校長、ホテル・観光系専門学校講師
資格:健康運動指導士、ネイチャーゲームリーダー、温泉ソムリエ
著書・メディア:『しつこい疲れがみるみるとれる!!リトリート休養術』(すばる舎)、多数のメディアに出演

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